ピアノを習う人にとって、ベートーヴェンのピアノソナタは特別な存在です。
音楽室の肖像画の厳格なイメージとは裏腹に、その音楽は情熱と優しさに満ちています。
「いつか『月光』や『悲愴』を自分の手で奏でたい」という夢は、ピアノ学習の大きなモチベーションになるでしょう。
しかし、いざ楽譜を開いてみると、黒い音符の多さに圧倒され、「今の自分に弾けるのだろうか」「どの曲から始めれば挫折せずに上達できるのか」と不安を感じる方も多いはずです。
特に大人になってピアノを再開した方にとって、限られた練習時間の中で難曲に挑むのは勇気がいります。
無理な選曲は、指の故障やモチベーションの低下を招きかねません。
本記事では、全32曲の難易度を客観的な指標でランキング化し、大人の再開組に向けた「賢い選曲法」を解説します。
単なる技術的な難易度だけでなく、「聴き映え」や「挫折回避」の視点を取り入れたロードマップを提示します。
あなたにぴったりの1曲を見つけて、ベートーヴェンのある豊かな生活をスタートさせましょう。
■本記事のポイント
- 全32曲の難易度を偏差値で把握でき、今の自分の実力に無理なく合った一曲を選べるようになる
- 大人再開組でも挫折せずにステップアップするための、具体的な練習順序(ロードマップ)がわかる
- 「悲愴」や「月光」など憧れの名曲について、技術的な難所や楽章単位での攻略法を事前に予習できる
- 際の難易度以上に華やかに聴こえる「コスパの良い曲」や、自分の手の大きさに合った弾きやすい曲を知ることができる
【全32曲一覧】ベートーヴェンのピアノソナタ難易度ランキング表

ベートーヴェンのピアノソナタ全32曲は、ピアノの新約聖書とも呼ばれ、初心者でも手が届く愛らしい作品から、プロの演奏家でも生涯をかけて取り組む難曲まで、その幅は非常に広いです。
まずは全体像を把握するために、詳細な難易度ランキング表を作成しました。
本セクションでは、判定基準の詳細と、各レベルの具体的な壁について解説します。
難易度の判定基準とレベル分けの目安
本記事では、読者が自分の実力に合わせて適切な楽曲を選べるよう、4つの難易度レベルを設定しました。
これは一般的なピアノ教材の進度(バイエル、ブルグミュラー、ソナチネ、ソナタアルバムなど)を基準としています。
初級(★1から3):ソナチネアルバム終了程度
ツェルニー30番前半レベルの技術で演奏可能です。
オクターブ(8度音程)の連続が少なく、手の小さい人や、指の拡張が苦手な方でも取り組みやすい楽曲です。
ただし、音楽的な構成感(フレーズの歌い方など)はしっかり求められます。
中級(★4から6):ソナタアルバム1巻程度
ツェルニー30番終了から40番前半レベル。
基本的な指の動きに加え、和音の響きのバランス感覚や、ペダリング(足で操作するペダルで音を響かせる技術)による音色の変化が求められます。
発表会で演奏しても十分に聴き応えのある曲が多く含まれます。
上級(★7から8):ツェルニー40番終了から50番レベル
複雑なリズム、速いパッセージ(急速な音階などの動き)、重音奏法(3度や6度など2つ以上の音を同時に弾くこと)など、高度なテクニックが必須です。
また、長時間演奏するための体力や集中力も必要となります。
最上級(★9から10):音大ピアノ科入試・リサイタルレベル
技術的な困難さはもちろんですが、それ以上に深い精神性や哲学的な解釈を表現する力が問われます。
晩年の作品群である「ハンマークラヴィーア」などが該当し、プロの演奏家にとっても大きな挑戦となる楽曲です。
第1番から第32番までの難易度偏差値リスト

全32曲の難易度を偏差値形式で一覧表にまとめました。
偏差値50を標準的な中級レベル(ソナタアルバム程度)として設定しています。
星の数は直感的な目安、偏差値はより細かい相対評価として参考にしてください。
| 作品番号 | 調性 | 通称 | 難易度 | 偏差値 | レベル |
|---|---|---|---|---|---|
| Op.2-1 | ヘ短調 | 第1番 | ★★★★★ | 52 | 中級 |
| Op.2-2 | イ長調 | 第2番 | ★★★★★★ | 58 | 中級上 |
| Op.2-3 | ハ長調 | 第3番 | ★★★★★★★ | 64 | 上級 |
| Op.7 | 変ホ長調 | 第4番 | ★★★★★★★ | 65 | 上級 |
| Op.10-1 | ハ短調 | 第5番 | ★★★★★ | 54 | 中級 |
| Op.10-2 | ヘ長調 | 第6番 | ★★★★★ | 53 | 中級 |
| Op.10-3 | ニ長調 | 第7番 | ★★★★★★ | 59 | 中級上 |
| Op.13 | ハ短調 | 悲愴 | ★★★★★★ | 58 | 中級上 |
| Op.14-1 | ホ長調 | 第9番 | ★★★★ | 45 | 初級上 |
| Op.14-2 | ト長調 | 第10番 | ★★★★ | 46 | 初級上 |
| Op.22 | 変ロ長調 | 第11番 | ★★★★★★ | 60 | 中級上 |
| Op.26 | 変イ長調 | 葬送 | ★★★★★★ | 57 | 中級上 |
| Op.27-1 | 変ホ長調 | 第13番 | ★★★★★ | 55 | 中級 |
| Op.27-2 | 嬰ハ短調 | 月光 | ★★★★★★★ | 62 | 上級 |
| Op.28 | ニ長調 | 田園 | ★★★★★★ | 58 | 中級上 |
| Op.31-1 | ト長調 | 第16番 | ★★★★★★ | 60 | 中級上 |
| Op.31-2 | ニ短調 | テンペスト | ★★★★★★★ | 63 | 上級 |
| Op.31-3 | 変ホ長調 | 第18番 | ★★★★★★ | 61 | 上級 |
| Op.49-1 | ト短調 | 第19番 | ★ | 35 | 初級 |
| Op.49-2 | ト長調 | 第20番 | ★ | 32 | 初級 |
| Op.53 | ハ長調 | ワルトシュタイン | ★★★★★★★★ | 72 | 最上級 |
| Op.54 | ヘ長調 | 第22番 | ★★★★★★ | 58 | 中級上 |
| Op.57 | ヘ短調 | 熱情 | ★★★★★★★★★ | 75 | 最上級 |
| Op.78 | 嬰ヘ長調 | テレーゼ | ★★★★★ | 55 | 中級 |
| Op.79 | ト長調 | かっこう | ★★★ | 42 | 初級 |
| Op.81a | 変ホ長調 | 告別 | ★★★★★★★ | 68 | 上級 |
| Op.90 | ホ短調 | 第27番 | ★★★★★★ | 59 | 中級上 |
| Op.101 | イ長調 | 第28番 | ★★★★★★★★ | 73 | 最上級 |
| Op.106 | 変ロ長調 | ハンマークラヴィーア | ★★★★★★★★★★ | 80 | 最上級 |
| Op.109 | ホ長調 | 第30番 | ★★★★★★★★ | 71 | 最上級 |
| Op.110 | 変イ長調 | 第31番 | ★★★★★★★★ | 70 | 最上級 |
| Op.111 | ハ短調 | 第32番 | ★★★★★★★★★ | 76 | 最上級 |
【レベル別】ベートーヴェンのピアノソナタ難易度で練習順序とロードマップ

難易度表を見るだけでは、実際にどの順序で取り組めば良いか迷うかもしれません。
特に大人の再開組は、効率的に上達できるルートを選ぶことが挫折回避の鍵です。
子供の頃とは違い、練習時間が限られているため、無謀な挑戦は時間の浪費につながります。
ここでは、着実にステップアップするための具体的なロードマップを提案します。
初級編:ソナチネ修了レベルで弾ける第19番と第20番
ベートーヴェンのソナタ入門として最適な作品は、第20番ト長調(Op.49-2)と第19番ト短調(Op.49-1)です。
これらは「やさしいソナタ」として書かれた経緯があり、ソナチネアルバムにも収録されています。
第20番は全ソナタの中で最も難易度が低く、第1楽章の明るいテーマは、3連符の粒を揃える練習に最適です。
第2楽章のメヌエットは、有名な「七重奏曲」からの転用で、優雅なリズム感を養えます。
第19番は、短調特有の哀愁を帯びたメロディが美しく、感情表現の第一歩としてうってつけです。
まずはこの2曲で「ソナタ形式(提示部・展開部・再現部)」の構造を体感し、ベートーヴェンの語法に慣れることから始めましょう。
中級編:表現力を磨く第25番「かっこう」と第9番・第10番
基礎が定着したら、次は第25番ト長調(Op.79)、通称「かっこう」へ進みます。
第1楽章の「ソラ、ソラ」というカッコーの鳴き声のような動機が特徴で、交差する手の動きや、軽快なリズム感を養うのに適しています。
全3楽章ありますが、全体的に短くコンパクトなため、集中力が途切れやすい方でも取り組みやすい一曲です。
続いておすすめしたい楽曲は、第9番ホ長調(Op.14-1)と第10番ト長調(Op.14-2)です。
これらはベートーヴェン自身がピアノ編曲した弦楽四重奏曲のような響きを持ちます。
第9番は多声部(複数の旋律)の弾き分けが求められ、第10番は会話のような掛け合いが魅力です。
派手なヴィルトゥオジティ(名人芸)はありませんが、内声の処理やフレージングなど、音楽的なセンスを磨くための良質な教材となります。
挫折しないための学習ロードマップ
いきなり「熱情」や「月光」に挑むと、技術的な壁にぶつかり挫折するリスクが高まります。
着実に実力をつけるための推奨ルートを紹介します。
この順序であれば、各段階で必要なテクニックを無理なく習得できます。
1 導入期:第20番 → 第19番
(目的:ベートーヴェンの構成感に慣れる。
期間目安:2から3ヶ月)
2 発展期:第25番 → 第9番 or 第10番
(目的:表現の幅を広げ、長い楽曲を弾く体力をつける。
期間目安:3から5ヶ月)
3 挑戦期:第1番 or 第5番 → 第8番「悲愴」
(目的:初期の傑作に触れ、ダイナミックな演奏法を習得する。
期間目安:半年以上)
上記の手順を踏むことで、指の力と構成力を養いながら、憧れの名曲「悲愴」へと無理なく到達できます。
急がば回れの精神が、結果的に最短ルートとなります。
ベートーヴェンのピアノソナタ難易度で憧れの4大名曲の技術的ポイントを徹底解説

「悲愴」「月光」「テンペスト」「熱情」は、多くのピアノ愛好家が目標とする4大名曲です。
しかし、それぞれの楽曲には特有の技術的ハードルが存在します。
これらを事前に把握し、対策を練ることで、練習の効率は格段に上がります。
第8番「悲愴」:左手のトレモロと交差への対策
第8番ハ短調「悲愴」は、ドラマチックな序奏から始まる初期の傑作です。
最大の難所は第1楽章の左手オクターブによるトレモロ(2つの音を交互に速く弾く奏法)です。
長時間続くため、手首を固めてしまうとすぐに腕が痛くなります。
手首の高さを一定に保ちつつ、ドアノブを回すような回転運動で弾く脱力のコツをつかむ必要があります。
また、提示部では左右の手が交差するクロスハンド奏法が登場します。
視線を素早く移動させ、着地点を正確に見定める練習が不可欠です。
第3楽章はロンド形式で親しみやすいですが、中間部の対位法的な動き(左右が独立して動くこと)は指の独立性が試されます。
第14番「月光」:第3楽章の敏捷性と第1楽章の表現力
第14番嬰ハ短調「月光」は、楽章ごとの難易度差が激しい作品です。
第1楽章は技術的に平易に見えますが、3連符の伴奏とトップの旋律、そして低いバスの音をバランスよく響かせる高度なコントロール力が求められます。
左手でオクターブが届かない場合は、ペダルを上手く使いながら音をずらして弾く工夫も必要です。
第3楽章は一転して激しいプレスト(極めて速く)となり、分散和音(アルペジオ)が全編を駆け巡ります。
練習の際は、付点リズムやスタッカートを取り入れた「リズム変奏練習」を行い、指の敏捷性を徹底的に鍛えることが攻略の鍵です。
第17番「テンペスト」:ペダリングとドラマチックな緩急
第17番ニ短調「テンペスト」は、シェイクスピアの戯曲に関連づけられる物語性のある作品です。
第1楽章冒頭の緩急の切り替え(ラルゴとアレグロの対比)や、一本のペダルの中で響きを溶け合わせるようなペダリング技術が重要になります。
特に展開部のレシタティーボ(語るような旋律)では、ウナ・コルダ(弱音ペダル)を効果的に使い、異界の響きを演出するセンスが問われます。
第3楽章の無窮動(途切れなく続く動き)風の主題は、指先だけで弾こうとせず、手首の回転を利用して波のようなフレージングを作ることがポイントです。
第23番「熱情」:体力と精神力が試される最高峰の技巧
第23番ヘ短調「熱情」は、ベートーヴェン中期ソナタの頂点に位置します。
第1楽章の不気味なユニゾン(左右で同じ音を弾く)から爆発的なフォルテへの移行、第3楽章の休みなく続く急速なパッセージなど、演奏者には強靭な体力と集中力が求められます。
特に第1楽章展開部の左手連打や、第3楽章コーダ(終結部)の圧倒的なスピードは、基礎的なテクニックの完成度が露わになります。
単に指が動くだけでなく、楽曲の持つ凄まじいエネルギーを受け止め、表現として昇華させる精神的な成熟が必要です。
生半可な気持ちでは弾きこなせない、まさに「熱情」を燃やして挑むべき難曲です。
【楽章別】完走しなくてもOK!ベートーヴェンのピアノソナタ難易度を部分的に楽しめる名曲ガイド

全楽章を通して演奏するのは、多忙な社会人にとってハードルが高いものです。
「全楽章弾かなければ意味がない」と思い込み、挑戦を諦めてしまうのは非常にもったいないことです。
特定の楽章だけであれば、憧れの名曲も射程圏内に入ります。
月光第1楽章だけならブルグミュラー修了レベルでも可能
「月光」の第1楽章は、テンポが遅く、極端に難しい指の動きもありません。
オクターブが届く手であれば、ブルグミュラー25番を終えた程度の実力でも譜読みは十分に可能です。
重要な点は、右手の親指・人差し指・中指で弾く3連符の伴奏を、小指で弾くメロディよりも弱く抑える「音の層」を作ることです。
自分の音をよく聴き、バランスを整える耳のトレーニングにもなります。
悲愴第2楽章で学ぶ美しいカンタービレ奏法
「悲愴」の第2楽章アダージョ・カンタービレは、テレビCMや映画でも頻繁に使われる有名な旋律です。
技術的な速さは求められませんが、ピアノを「歌わせる」奏法の習得に最適です。
メロディラインを途切れさせず、伴奏の内声部を柔らかく支えるためには、指の重さを鍵盤に乗せるタッチの感覚が必要です。
単独で演奏会やストリートピアノで弾いても十分に聴き映えする美しさがあり、大人の学習者が感情を込めて弾くのにふさわしい一曲です。
癒やしの第2楽章だけを弾く選択肢
他のソナタにおいても、緩徐楽章(ゆっくりとした楽章)だけを抜粋して練習する方法は有効です。
例えば、第5番ハ短調の第2楽章は、静謐で祈りのような美しさを持っています。
また、第7番ニ長調の第2楽章は、深い悲しみを湛えた名曲として知られています。
速いパッセージに追われることなく、一音一音の響きを味わいながらピアノに向かう時間は、日々の仕事や家事のストレスを癒やす貴重なひとときとなるでしょう。
聴き映え抜群!ベートーヴェンのピアノソナタ難易度以上に華やかに聞こえるコスパの良い曲

限られた練習時間で成果を出したい方にとって、演奏効果の高い曲選びは重要です。
「実際の難易度よりも上手く聞こえる(=コスパが良い)」曲を選ぶことは、モチベーション維持の賢い戦略です。
テクニックより表現力で勝負できる中期の傑作
第27番ホ短調(Op.90)は、全2楽章と短く、ベートーヴェン後期の入り口に位置する美しい作品です。
派手な技巧よりも、内省的で歌心あふれる表現が主体となるため、大人の演奏者が持つ人生経験や感性を活かせます。
また、第5番ハ短調(Op.10-1)の第1楽章は、「運命交響曲」と同じ調性で書かれており、付点リズムによる力強い推進力が特徴です。
技術的な難所は比較的少ないものの、キレのあるリズムとダイナミクスで、ベートーヴェンらしい情熱をアピールできるため、聴き映えは抜群です。
発表会におすすめの知られざる「隠れた名曲」
「悲愴」や「月光」は発表会で選曲が被りやすいですが、第24番嬰ヘ長調「テレーゼ」(Op.78)は通好みの選曲としておすすめです。
ベートーヴェン自身も気に入っていたというこの曲は、全2楽章でコンパクトながら、優美で愛らしい旋律が魅力です。
また、第13番変ホ長調(Op.27-1)は「幻想曲風ソナタ」と題され、自由な形式で書かれています。
各楽章が切れ目なく続くため、ドラマチックな構成を演出しやすく、中級者がステップアップして取り組むのに適しています。
逆に「簡単そうに聞こえて実は難しい」避けるべき曲
聴いている分にはシンプルで軽やかに聞こえますが、演奏者にとって負担の大きい「コスパの悪い曲」があります。
第18番変ホ長調(Op.31-3)はその代表例です。
「狩」という通称で呼ばれることもあり、快活なリズムが特徴ですが、高度な指の独立性と敏捷性が求められます。
少しでもリズムが崩れると目立ちやすく、練習量に対して聴衆への「凄み」が伝わりにくい曲です。
また、第22番ヘ長調(Op.54)も、地味ながら技巧的に厄介な箇所が多く、選曲には慎重になるべきでしょう。
ベートーヴェンのピアノソナタ難易度で手の大きさや身体的特徴で判断する「弾きやすさ」の基準

ピアノの弾きやすさは、手の大きさや指の柔軟性など、個人の身体的特徴に大きく左右されます。
自分のタイプに合った曲を選ぶことで、無理なく練習を続けられます。
オクターブが苦手な人が注意すべき曲と回避策
手が小さい人や、オクターブを連続して弾くと手が疲れてしまう人は、第21番「ワルトシュタイン」や第29番「ハンマークラヴィーア」などの曲は避けたほうが無難です。
これらの曲は、広い音域をカバーする和音やオクターブの跳躍が頻出し、物理的に手が届かないと演奏が成立しない箇所があります。
一方で、第9番、第10番、第25番などは、オクターブの使用頻度が比較的低く、指先の細やかな動きが中心となるため、手が小さめの方でも演奏しやすい傾向があります。
また、電子ピアノで練習する場合、鍵盤の戻りが遅い機種では連打が難しいことがあるため、楽器の特性も考慮しましょう。
トリルや連打の得手不得手による相性
長いトリル(装飾音の一種で2音を交互に素早く弾く)や同音連打が得意かどうかで、体感難易度は変わります。
第21番「ワルトシュタイン」の第3楽章や、第30番以降の後期ソナタには、非常に長いトリルが登場します。
薬指と小指でトリルを弾きながら、親指でメロディを奏でるような高度な技術が必要な場面もあります。
指の独立性が弱いと音が粒立たず、綺麗に響きません。
トリルが苦手な場合は、第1番や第5番など、古典的な音階や分散和音を中心とした初期の作品を選ぶと、ストレスなく練習に取り組めるでしょう。
加齢による指の動かしにくさをカバーする選曲術
年齢とともに速いパッセージで指が回りにくくなることは自然な現象です。
無理に速さを競う曲よりも、テンポにゆとりのある曲や、和声(ハーモニー)の変化を楽しむ曲を選ぶのが得策です。
例えば、第31番変イ長調(Op.110)の第1楽章は、穏やかなテンポの中で美しい旋律が歌われます。
技術的な速さではなく、音色の深みやフレーズの処理で聴かせるアプローチが可能であり、大人の演奏者にふさわしい深みを持った作品です。
指の運動能力だけでなく、「歌う心」で勝負できる曲を選ぶことが、長くピアノを続ける秘訣です。
ベートーヴェンのピアノソナタ難易度と創作時期による作風と難易度の変化

ベートーヴェンのピアノソナタは、作曲された時期によって作風が大きく異なり、それぞれ求められる技術や表現が変化します。
この変遷を知ることで、より深く楽曲を理解し、自分に合ったスタイルの楽曲を見つけやすくなります。
前期:ハイドンとモーツァルトの影響と基礎技術
前期(Op.2からOp.22頃)の作品は、先人であるハイドンやモーツァルトの古典派様式を色濃く受け継いでいます。
第1番から第3番、第11番などが該当します。
形式が整っており、スケール(音階)やアルペジオといったピアノ演奏の基礎技術が満遍なく盛り込まれています。
学習教材として非常に優れており、基礎をしっかり固めたい方や、端正でクリアな演奏スタイルを好む方に適しています。
この時期の作品を丁寧に仕上げることで、古典派特有の品格やタッチの正確さを養うことができます。
中期:情熱的な表現とダイナミックな展開
中期(Op.26からOp.90頃)は「傑作の森」と呼ばれ、ベートーヴェンの個性が確立された時期です。
「悲愴」は前期に含まれますが作風は中期に近く、「月光」「テンペスト」「熱情」「告別」などがここに含まれます。
当時のピアノの性能向上に伴い、使用可能な音域が広がり、ダイナミクス(強弱)の幅も劇的に大きくなりました。
感情の起伏が激しく、ドラマチックな表現を好む方にとって、最も弾きごたえのある時期の作品群です。
技術的な難易度も上がりますが、演奏効果が高く、弾き手の感情をぶつけやすいのが魅力です。
後期:精神的な深みと複雑な構成への挑戦
後期(Op.101からOp.111)の作品は、聴力をほぼ失った晩年のベートーヴェンが内面世界を探求した結果生まれました。
第28番から第32番までの5曲が該当します。
ここではソナタ形式という枠組みを超え、フーガ(対位法的な形式)や変奏曲などの複雑な構成が多用され、自由で即興的な表現が見られます。
技術的な難易度は最高峰であり、さらに抽象的な内容を解釈し、音にする知性が求められます。
これらは単なるピアノ曲を超えた「哲学」とも言える領域にあり、ピアノ人生の集大成として取り組むべき、深遠な世界が広がっています。
【まとめ】ベートーヴェンでピアノソナタの難易度について
最後に本記事で重要なポイントをまとめます。

